2015/12/16

冬のたのしみ 「リンゴのジャム」登場

assemble! / りんごのジャム / 160 g / 756 yen


【冬嫌いの男】

暖冬だ、と前もって発表されていたからなのか、クリスマスを前にしていかにも冬らしい寒さが
ようやくやってきた今、妙にほっとしている自分がいることに少し驚いている。

と、いうのも自分は日本にある四季の中で冬ほど苦手なものはない、春夏秋の3つだけでいい、と周囲の
親しい人間のうんざりした顔をよそにしょっちゅう熱弁していたからだ。

にも関わらずこうして一年ぶりにその存在意義を示したキッチンの石油ストーブのあたたかさに
頼らざるを得なくなった今朝、随分遅れてきた冬の寒さに小さな感謝さえしていたのだ。

大の冬嫌いを標榜してやまない自分がなぜこんな気持ちになったのか。

その答えは分かっている。自分でも呆れてしまうのだがあんなもののために子供の頃、親に具合が悪いと
ウソをついてまで学校を休みたかった冬そのものを心待ちにしていたのだ。

りんご。

正確には「りんごのジャム」。素朴な瓶に詰まったくすんだ茶色の半固形物。

いつも珈琲豆だけを買いに行く近所の食品店に、そのジャムはあった。

その日もまた、丁度切らしていた深煎りの豆を買いに訪れいつもの通り、レジカウンターで「ビターを200グラム」と
注文していた。

豆を袋に詰める間、いつもの髭面の男性従業員が人懐こい顔で天気の話しやスポーツのこと等当たり障りのない
世間話をしてくるのでそれに対してこちらも ええ、はあ、と返答とも相槌ともとれない受け答えをする。

他愛もない会話が尽きかけた頃、珈琲豆が密封袋に詰められ手渡される。代金を支払い、髭面の従業員氏に挨拶をし、
扉に手を掛けようとした時、ふと気になって振り返るとカウンターの横の棚に山積みになったジャムの瓶が目に入った。

自家製のりんごジャムです、おいしいですよ。と、扉を開け店を去ろうとしていたにも関わらずふいに振り返った
珈琲豆専門の馴染み客の視線の先を目ざとくとらえ、髭面氏はまた人なつこい顔で自店の商品を勧めた。

気づけば一つ、代金を支払って帰宅していた。

寒い日の朝、トーストに塗って食べるとより美味しいですよ。 そう言いながら愛すべき髭面氏が手渡してくれたジャムを
棚の隅に置き、彼が勧める最良の「食べ時」を待った。

12月にも関わらず月の前半はどうかすると10月かと勘違いするほど温かい日が続き、誰に止められているわけでもない
瓶の開封をするしかるべき日 - つまり、ストーブが必要な程寒い朝 - を心待ちにしていた。

そうしてあの何かに引き寄せられたかのような気まぐれでジャムを買った日から1週間ほどした今朝、ベッドから
起きて一番にキッチンにある年代物の石油ストーブをつけた12月中旬の朝、待ちわびた開封の瞬間がやってきた。

彼の教えの通り、来たるべき日の為に準備しておいた厚切りの食パンをトースターでこんがりと焼き、
ストーブで沸かしたケトルの湯で濃いコーヒーを落とし、準備万端となったところでいよいよ厳粛なる開封式を
執り行う。

ぱこ。 

随分待ちわびた瞬間にしては何とも間抜けで拍子抜けした音だった。

間抜けな音の先に見えたジャムそのものも透き通っていたり輝いていたりというような華美なイメージではなく
透明な瓶の外側から見えていたままの、地味なくすんだ茶色だった。

膨らんでいた期待は ぱこ、という音とともに少し萎んでいた。

とはいえ、蓋を開ける前から見えていたものがそのままの姿で中から現れただけなのであって、勝手に
華美なものへとイメージを膨らませて行った自分こそがどうかしている、とその地味な保存食に対して
小さく詫びた。

味は見た目じゃない。 食品に対しての使い古された擁護の言葉を口にしながら、やや焼きすぎて焦げ目のついた
トーストにその地味なジャムをたっぷりとのせる。

コーヒーを一口啜り、ばりっ という音とともにトーストを口に運ぶ。

うまい。 
いや、簡単に一言で言ってしまうにはもったいないような味だったが、うまいとしか言葉が
でてこない。

二口めも慎重に、味わうように噛みしめ、そのりんごらしいほのかな酸味と「適切」という表現がこれほど
ぴったりな状態もないだろうと思えるほど適切な甘み。

寒い日はエネルギーを蓄えておかないと。と、誰に言うでもなく言い訳をしながら2枚目のトーストを
焼くほど、美味しかった。

結局2枚のトーストと、追加で淹れたコーヒー2杯。朝食としては十分すぎるエネルギーを蓄える結果と
なった冬らしい寒さの朝。

ストーブの前で着替えをしながら、「少なくともこれから冬に絶望することはなくなりそうだな」と
自分の中での大きな変化をありがたく噛みしめていた。

食器を洗い、身支度を整えて職場へと向かうべく古くて重い鉄製のドアを開けると、昨日とはまったく違う
厳しさをはらんだ冬の冷たい空気に早くも先ほど自分のなかに認めた有難い変化を打ち消したくなった。


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今回は趣向を変えて物語調ではじめてみました。

文中の冬嫌いな男を、「少なくともこれから冬に絶望することはなくなりそう」とまで思わせる
おいしさを秘めた自家製のリンゴジャム。

これまで作りたくてもできなかったリンゴのジャム。
ようやく探し求めていたおいしいりんごの生産者さまに出会え、こうしてデビューさせることができました。


信州、長野は南アルプスのふもとで減農薬、有機たい肥、除草剤不使用にて大事に育てられた
「サンふじ」を使って、キビ砂糖と一緒に煮込んでいます。


素朴な表情ですが内に秘めた味わいは素晴らしく、あつあつのトーストに塗って食べると
りんごならではの酸味と甘みが交互に押し寄せ、ずっと食べていたい衝動に駆られてしまうほど。

もちろんトーストだけではなく、ヨーグルトに混ぜたり、サラダに添えたりするのもいいんです。



あ!これはお伝えしておかないと!

「りんごホットミルク」。 小鍋であたためたミルクにスプーンですくったりんごジャムをぼってりと落とし、
たっぷりのマグでふぅふぅ言いながら味わう。

冬の寒い夜に、大切な一冊を読みながら飲んでいただくとより一層味わい深いものとなりそうです。



これから年内にあと2回ほどの生産を予定しています。

ただ、毎回数は多くありませんので、りんごがお好きな方にはぜひお早目にお試しいただきたいと思います。


そう、そして 「冬嫌い」な皆様にこそ味わっていただければ幸いです。


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